「あのお店が閉店してしまった…」。そんな光景が多く見られるようになりました。事業者の後継者不足が社会問題となっています。今回は、南城市で事業承継を成功させた2社のストーリーを紹介します。
お問合せ: 観光商工課 TEL 098-917-5387 / 南城市商工会 TEL 098-947-1283
2代目店長の神里盛一さんが従業員の宇良孝さんに事業承継を切り出したのは、ごく日常的な業務の中でした。
「自分が父親から引き継いだときは親子だから当然という感じだったが、宇良は言ってみれば他人。でも心配はなかった。どうかと聞いたらやってみると言ってくれた」と語る神里さん。
創業60年以上の歴史を誇る神里自転車店。自転車やスクーターの販売と修理を手がけ、地域に根ざしたこの店は、南城市で多くの常連客に愛されています。 名護市出身の宇良さんは、佐敷出身の妻との結婚を機に南城市に移住し、14年前に神里自転車店に入社しました。神里さんは、手の不調から経営の継続が難しくなり、宇良さんに店の引き継ぎを提案しました。
「名前さえ引き継いでくれたら、自由に経営していい」と語る神里さん。 宇良さんは当時の心境をこう振り返ります。
「技術的なことは今までやってきましたが、経営に関しては未知の領域。やっぱり不安はありました。2年間の『お試し期間』を設けてもらい、その間に経営の感覚をつかんでいきました」
猶予期間を経て、2024年、正式に開業届を出し、宇良さんは3代目として店の経営を本格的にスタートさせました。
「店名を引き継いだメリットは強く感じています。お客さんからの信頼も引き継いだ気持ち。責任がやっぱり違って、従業員のころから心境がガラッと変わりました」と語る宇良さん。
経営者としての責任の重さを感じる毎日ですが、宇良さんは店の無駄を削減し、効率化を図る経営改革を実施しました。いらない宣伝広告費や本業以外の業務を削減し、修理と中古車販売に専念することで、店の収益を安定させています。
事業承継は一般的にはハードルが高いと思われがちですが、神里自転車店の場合、スムーズに進みました。神里さんの「店名さえ引き継げばあとは口出ししない」というこだわり、宇良さんの心の余裕と自信につながった猶予期間が、承継成功の秘訣だったかもしれません。
現在、南城市への移住者が増える中、新規の顧客も少しずつ増えていますが、顧客の8割は常連客。なじみのお客さんが子や孫と、世代を超えてお店に来てくれることは、宇良さんにとって大きな喜びです。
「自転車に乗っていた子が、成長して原付を買いにくる光景がめっちゃいいんです。なので今後は商品ラインナップを増やしてあげたいですね」と未来への展望を語りました。
2017年に南城市で設立された(株)フロンティアウェーブは、代表取締役社長の小波津隆二さんのリーダーシップのもと、配電盤業界で独自の地位を築いてきました。
設立から5年目、営業や設計を得意としていたフロンティアウェーブでしたが、製造も強化したいと自社工場の建設を検討していました。そんな折、取引先との飲み会で、ある一言が小波津さんの未来を劇的に変えることとなります。
同業者で製造を委託していた(株)琉電製作所(糸満市)の前社長と酒を酌み交わしていたとき、「工場をつくるくらいなら、うちを買い取らないか」という提案が。琉電製作所は1965年創立の老舗企業であり、当時の社長は80代。規模はフロンティアウェーブよりも大きく、企業買収の話を持ちかけられた小波津さんは当初、「そんな資金はない、無理だ」と断りました。
しかし、「一度、融資を相談しにいこう」と銀行へ。意外にも銀行側の反応は前向きで、半年間で一気に融資の話が進展しました。コロナ禍で先行き不透明な中、多くの反対意見もありましたが、小波津さんは「仕事は増えると確信があった。不安よりこれからの会社の発展が楽しみだった」と振り返ります。
フロンティアウェーブは、琉電製作所を2021年に買い取り、子会社化。これにより、設計・営業に強みを持つフロンティアウェーブと、製造に秀でた琉電製作所の強みを融合させることができました。
買収後、小波津さんは琉電製作所の旧来型の業務を見直し、迅速にIT化を推進。全社員にタブレットを配布し、アプリを駆使して生産性向上を図りました。
さらに、若い人材を積極的に採用し、設備を最新化。福利厚生も充実させ、両社の就業規則を統一することで、働きやすい環境を整備しました。現在、両社合わせて76名の社員が働いていますが、将来的には100名体制を目指しています。
「事業承継は、知名度や顧客、技術の蓄積、人材がすでにあることを考えれば、ゼロから会社を立ち上げるよりも遥かにメリットは多い」と語る小波津さん。
事業承継はこのように事業の更なる発展を可能にします。親族や従業員以外への承継に不安を感じている経営者へ、小波津さんは次のように呼びかけます。
「廃業したあとに『もったいない』『買い取ったのに』という声はよく聞く。継ぎ手がいなくて廃業を考えている経営者は、一度、外部へ相談してほしい」
約3割(28.4%)が後継者不在による廃業
地元企業の廃業は単なる経済的損失にとどまらず、地域のコミュニティや文化、公共サービスにまで影響を及ぼします。
例えば、地元の特産品を生産する企業が廃業すれば、その技術やノウハウが継承されずに消えてしまいます。これにより、地域の経済的多様性が失われ、外部への依存が増えることになります。
さらに、地元企業がスポンサーとなっている地域活動やイベントの支援がなくなることで、コミュニティの活力が失われます。地方自治体の財政も圧迫され、公共サービスの質が低下する可能性があります。最終的には、地域特有の文化や景観、くらしが失われるかもしれません。このように、後継者不足は地域社会全体に深刻な影響を与えるのです。
事業承継は、単に経営者の交代にとどまらず、企業の存続と発展を支える重要なプロセスです。
事業承継がうまく行われることで、企業の知識、技術、顧客基盤が引き継がれ、安定した経営が続けられます。また、雇用の維持にもつながり、地域全体の経済的な安定と発展に寄与します。さらに、新しい経営者が新しい視点やアイデアを持ち込むことで、企業の成長や革新が促進される可能性もあります。
事業承継の成功のために、企業は早期から計画を立て、後継者の育成や準備を進めることが求められます。
南城市と市商工会では連携し、地元事業所の事業承継を支援する「なんじょうTSUNAGARUプロジェクト」を始動しました。相談窓口を設置し、後継者育成の計画作成や、事業を引き継いで欲しい事業所と受け継ぎたい人材とのマッチングを進めてまいります。お気軽にご相談ください。
テーマ | 基本を学ぶ、事業承継セミナー |
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日時 | 2024年9月5日(木) 9:30~11:30 |
会場 | 南城市商工会 2階 |
参加料 | 無料 |
申込方法 | 商工会ホームページまたは電話にて受付 |
問合せ | 南城市商工会 TEL 098-947-1283 https://nanjo-shoko.jp/ |
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