聖なる森に足を踏み入れると、空気が変わる瞬間があります。少し湿った石畳を転ばないよう気をつけながら歩き、所々、開けた空間にたどり着くと、そこがイビと呼ばれる聖域。荘厳な大岩を前に、往時の人々がそこで何を祈りったのか…。神話の世界から王国の時代、そして現代へ、重厚な時の流れに思いをはせずにはいられません。
世界遺産・斎場御嶽。2000年に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」のひとつとしてユネスコ世界遺産に登録されてからは、来訪者が増え、現在では多くの人々が聖地を訪れます。
それに伴って課題も増えてきました。多くの人々が訪れることの交通渋滞、マナー違反、すり減る石畳。斎場御嶽を管理する南城市では、市観光協会やガイドの会と連携し、マナーの周知を徹底し、駐車場の適正化を図るなど、世界遺産の保護に努めてきました。
琉球の精神文化の象徴であった斎場御嶽が、世界の「宝物」になってから20年を経た今、改めて斎場御嶽とは何なのか、また、世界が、観光客が、そして何より、私たち南城市民が、斎場御嶽とどう向き合っていくのか。
斎場御嶽のこれまでと、今と、これからを、一緒に考えていきましょう。
斎場御嶽は、琉球の創世神「アマミキヨ(アマミク)」が創った御嶽のひとつとされています。琉球王国時代には国王が巡幸し、また最高位の女神官である聞得大君(きこえおおきみ)の就任儀礼「御新下り(おあらおり)」が行われたことから、「最高の聖地」として多くの人に崇められてきました。
1906年 (明治39) | 知念村に所有権移転 |
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1955年 (昭和30) | 琉球政府指定 史跡、名勝 |
1972年 (昭和47) | 国指定 史跡 |
1994年 (平成6) | 整備事業開始 |
2000年 (平成12) | 世界遺産リストに登録 |
2007年 (平成19) | 緑の館・セーファを整備、有料で御嶽を公開 |
2012年 (平成24) | 年2回の休息日を設定 |
2013年 (平成25) | 駐車場・発券所を南城市地域物産館に移転 |
世界遺産は「すべての国や地域、すべての時代や世代の人にとって同じように素晴らしいと感じる価値」として認められたものです。世界遺産条約ではこれらを「人類全体のための世界の遺産の一部として保存する必要がある」としています。
斎場御嶽の来訪者は2012年度のピーク時には43万8千人に達しました。当時、連休時には車の渋滞が慢性化し、地域住民の暮らしにも影響を与えていたほか、御嶽周辺の自然環境への影響や、マナーの低い入域客により祈りをささげる方々から苦情が寄せられるなど、聖地のあり方が課題となっていました。
南城市では史跡や自然の保護を目的として年2回の休息日を設け、渋滞を緩和するため駐車場を市地域物産館へ移動するなど、斎場御嶽の適正なあり方を継続的に模索しています。
南城市が策定した「斎場御嶽保存活用計画」(平成29年度)では、その本質的価値のひとつを「拝所と自然環境が今なお信仰の継続により聖地として継承されている稀有な物証」としています。今や南城市の観光振興に欠かせない存在となっている斎場御嶽ですが、その本質的価値が失われては元も子もありません。世界遺産の主旨である「保存」と「活用」を両輪で維持することが求められています。
斎場御嶽を訪れる際の「心得」の動画を制作。インターネット上へ公開し、また来訪者に入域前に観ていただく等を徹底し、マナー向上に努めています。
https://youtu.be/VMb2kDcevRc
斎場御嶽が世界遺産に登録された当時、旧知念村役場で担当者だった大城さんにお話を伺いました。
大城秀子(おおしろひでこ)さん
平成4年に旧知念村役場に採用。その後、南城市文化課課長等を歴任。現在、沖縄国際大学 南島文化研究所 特別研究員。
Q. 世界遺産への登録のきっかけは?
日本が世界遺産条約締結したのは1992年(平成4年)、その際に日本国を代表する歴史的な文化財を世界遺産に推薦する作業が文化庁で始まりました。沖縄の「琉球のグスク及び関連遺産群」は、中世以前に独立王国として成立した琉球王国の極めて高い文化の独自性を、文化庁が認め推薦してくれたのが始まりです。県と関係市町村も勉強会や研修等を一緒に行う中で、世界遺産の詳細を学んで行きました。
Q. どのような業務に当たったのでしょうか?
まず保存のエリア(緩衝地帯:バッファ―ゾーン)を決めることでした。これは遺産を保護するための利用制限区域のことです。斎場御嶽の価値(風致景観・資産の持つ品位)を維持するため、関係部局とも相談しながらバッファゾーンを設定していきました。 それに関連して、地域住民の皆さまへの説明会を何度も行いました。世界遺産自体がやはり知られていなかったので、住民の皆さんもピンときていない様子でした。ご理解いただけたのは金の勾玉が出土された頃からでしょうか。参道も整備され、少しずつ「良いことだね」と言ってもらえるようになりましたね。
Q. 大変だった点はありますか?
当時の斎場御嶽はとても荒れた状態。整備のために樹木を伐採する必要があるのですが、御嶽の価値は自然崇拝の対象となる「自然」です。もともとあった木なのか、戦後に生育したものなのか等、自然の生態系を3年かけて調査し、可能な限り元の植栽に戻すようにしました。
Q. 保存と観光のバランスは?
まずは保全・保護が一番。文化財を大事にしてこその観光振興です。この場所をよりよい状態で次の世代に繋いでいかなければなりません。今後も、遺産を大切に守り受け継いできた人々の「想い」と持続可能な観光の在り方を、市で一生懸命に考えていけば良い結果が得られると思います。
Q. 私たちは御嶽にどう向き合えばよいでしょか?
まだ行かれたことがない方も多いかと思います。ぜひ一度は訪れていただき、好きになってもらえれば。文化財への愛着があれば、自ずと文化財を大切にしますよね。例えば今まで以上に学校教育を通して、子どもたちに親しみ・理解をしてもらうことが、将来の持続可能な文化財の保護と活用につながると思います。自分や地域にとって大切な存在は守っていきたいですよね。これは人材育成にそのままつながると思います。
斎場御嶽の入口:緑の館・セーファ(ガイド予約)
電話 098-949-1899
チケット販売所:南城市地域物産館
住所 沖縄県南城市知念字久手堅539
開館時間 | 3月〜10月 9:00~18:00 |
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11月〜2月 9:00~17:30 | |
入館チケット | 南城市地域物産館で販売 |
大人(高校生以上) 300円 | |
小人(小・中学生) 150円 | |
団体(20名以上) 200円 | |
休館日 | 2020年11月15日~11月17日 |
2021年6月10日~6月12日 |