ずっと自問自答していた
こんばんは。新崎誠実と申します。今日は僭越ながらお話しさせていただきます。せっかくですので新人演奏会を絡めて自己紹介をさせていただきます。
わたしは沖縄県宜野湾市の出身で、ピアノは子どもの頃からお稽古でやっていたんですけれども、小学5年生の頃に音楽に進もうかなと考えてから、本格的にレッスンに取り組み始めたんです。けれども、やっぱり皆さん同じだと思うんですが、8~9割は(音楽に)進むぞって決めたところで、本当に将来この長い人生の中で、音楽でやっていけるのかなって不安があり、ずっと自問自答していました。その頃に始まったのがこの新人演奏会オーディションだったんですね。
なので、音楽に進みたいけど、大丈夫かなと迷いながらも、テレビで放映されていた受賞者の演奏やインタビューなどを何度も見て、自然と「ここでグランプリを取りたいな」っていうのが絶対目標になっていました。その後、開邦高校[i]の音楽コースに進んで、1年間浪人時代を経て、沖縄県芸[ii]に進みました。
グランプリを受賞して
大学2年生の終わりぐらいの頃にこの新人演奏会に参加して、グランプリをいただきました。大学4年生の前期が終わったところで休学して、フランスに2年間留学しました。そのあと復学して、卒業したというかんじですね。
最近よく聞くようになったと思うんですけれども、全国の公共ホールと一緒にコンサートやアクティビティを企画開催していく一般財団法人地域創造[iii]の音楽活性化事業のアーティストに卒業と同時に合格できました。今で10年目になります。
今現在住んでいるのは沖縄なんですけれども、大きいコンサートなどは県外での実施が多いです。県内では、アイム・ユニバースてだこホール[iv]と一緒に行っている「てだこのみみぐすい」事業っていうのを今やっていて、今年で6年目ぐらいになります。あと、自主公演のリサイタルを年に1~2回企画しようとしているのと、個人レッスンと、沖縄県芸弦楽コースの伴奏員などをやって、今現在にいたります。みなさんと共通点もあるかなと思うのでよろしくお願いします。
「この子はなにをやっているのだろう」という周囲の反応が変わる
私が受けて良かったなと思うのが主に3つ思い浮かぶんですけども、まずは奨学金ですね。大きいですよね。特に県内在住者は旅費とかもかからないので、参加費に対してのこの奨学金っていうのは本当に他のコンクールと比べてもかなり貴重なもので、わたしはこの奨学金が留学の後押しになったので、本当に大きかったかなと思います。
二つ目に、新聞やテレビなどのメディア出演というのがあります。沖縄タイムスさんの紙面に大きく取り上げていただけたり、沖縄電力さんがスポンサーのテレビで放送していただけるっていうのは、お友達や親戚とかが見てくれるのですよね。「この子は何をやっているのだろう」、「ピアノやってるらしいけどほんとに弾けるのかしら」みたいなのとか、今まで信用されてなかったところも応援してくださったりとか、知ってくださったりとか、時にはファンになってくださったりっていうのは本当に大きかったなと思います。
あともう一つが、シュガーホールのイベント出演です。さきほど事務局の方が「新人演奏会がとりあえずのゴール」とおっしゃっていたんですけれども、これに関してはそうではあるんですが、その後ですね、自分がこう、音楽活動を頑張っているとシュガーホールのスタッフさんがすごく皆さんの活動を見ていて、シュガーホールが主催する公演や学校公演などにお声かけしていただけることがあるので、そういう機会も増えるのはすごくいいことかなって思います。
つながる縁
この三点なんですけれども、それともう三点、受賞に関わらず自分次第ではいくらでもメリットが作れるっていうのが同じく三点あると思います。まずは出演者とのつながり。同じ時に同じ場所でオーディション受ける仲間・・・仲間?ライバルですけれども、同志っていうのは気が合わないはずがないということで。演奏前ですごく気が張っていると思うんですけれども、仲間とお話しできてずっとつながっていけるっていうのは本当に今後の音楽の中ですごく役に立ちます。私はこれで何度も助けられたことがあるので、出演者とつながれるのはすごくいい事かなって思います。
同じように審査員の先生方とつながれるっていうのもすごく大きいですね。今お話したことと同じなんですけれども、オーディションの後に先生方とのお話ができるレセプションがあります。直接講評がいただけるということもありますし、所属なども明らかになさっているので、自分次第ではその気になれば先生と連絡を取り続けることもできます。この、先生方とのネットワークがつながるというのもすごくいいことかなって思っています。
それからもう一つ、南城市さん、沖縄電力さん、沖縄タイムスさんとつながりができるというのも本当に大きいと思っています。今も会場の後ろにも来ていらっしゃいますけれども、沖縄タイムスさんの記者さんや、また沖縄電力の広報グループの方々とつながって、自主公演の時や告知の際に本当にお世話になって、応援していただいているので、こういうネットワーク、つながりが持てるというのは、受賞に関わらず参加したらご縁ができるのがすごく大事かなと思います。「コンクール本番だー」って思うと緊張しちゃうんですけど、今後音楽家としてどうやって活動するかみたいなのではすごく大事なことかなと思いました。
演奏から滲み出る人柄が演奏家としてふさわしいか、人間として愛せるか
もうちょっと時間があるので、少し余談というか面白い話をしようと思うんですけど。私がオーディションを受けたときにすごく変な話があって(笑)
わたしは矢代秋雄[v]作曲の≪ピアノソナタ≫、15分くらいの現代音楽を弾いたんですけど、オーディション中にピアノの弦が切れたんですね。で、1本だけじゃなくて2本切れたんですよ(笑)。決してクラスター[vi]とかではなかったんですけれど、結構ハードな打弦もしていたかなと思っていて。まあ、それだけではピアノの弦っていうのはなかなか切れないので、ピアノがそういう状況だったんだろうなと思うんですけれども。そんななか、一応最後まで弾ききって楽屋に戻ったら、当時の審査委員長の先生が走っていらっしゃって「ごめんなさい」と(笑)「これから調弦するから、もう一回弾きますか?弾きませんか?あなたの好きなようにしてください。」って言われて。でも、わたしはもう全力を出し切った後なのでお断りしたんですけれども、これに対してみんなが「かわいそうに」みたいなかんじになりました(笑)
変な話、私はすごく幸運だったなと思っているんですね。というのは、本当に変な話なんですけれど、(弦が)切れた人、切れたときの演奏っていうことで、ある意味印象に残っただろうし、そのハプニングがあった時にどうやってステージを乗り越えるかっていう姿勢を見て頂けた。それで、なんならもう一回聴いてみたいなと思ってもらえたかなーと思うので、わたしは結構幸運だったかなと思っていますね。
わたしは当時、以前にもオーディションを見学していたんですけども、やっぱりステージって生ものなのですよね。ドアマンがいても扉が開いちゃって騒音が出てきちゃったりとか、あと物音がすごい大きい音で出ちゃったりとかっていうハプニングがたまにあって。そういう時にステージの演奏者がどう対応するかというのを結構審査員の先生達は見てらっしゃるなって。そういう講評をおっしゃってる現場に何度も遭遇しているので、それって正解があるわけではないんですけど。
んー、なんて言うんだろな(笑)演奏はその人のいい所が滲み出ると思うんですけれども、それは、これまで真剣にその作品に真摯に向き合った証だと思うんです。なにかこう、お客様と向き合ったときにこの真摯に愛した作品とどうネットワークをつなげられるかみたいな。正解がないんですけど、ただ、そこから滲み出る人柄が、演奏家としてふさわしいか、とか、人間として愛せるか、みたいな、そういうのを結構見られているんだろうなという話を聞いて、結構納得したところでした。
演奏は、技術や表現というのは完成がないので、満足いく演奏ってのはなかなかできないと思うんですけども、もし皆さんが音楽人生の中でなにか得たいとか、これからどうしたいという目標や計画が、このオーディションにリンクする部分があれば、ぜひチャレンジしてみたらいいんじゃないかと思います。それでは私からは以上です。近いうち皆さんとステージご一緒できることを心待ちにしております。ありがとうございました。
本稿は「はじめてのオーディション~事前応募説明会~」(2020年12月4日、南城市文化センターシュガーホール)
「過去のグランプリ受賞者のお話」の内容を一部編集、抜粋したものです。
【関連情報】
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新崎誠実オフィシャルウェブサイト
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若手音楽家きたれ~第27回おきでんシュガーホール新人演奏会オーディション~
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おきでんシュガーホール新人演奏会オーディションとは?
【お問い合わせ】
(事務局) 南城市文化センターシュガーホール ※月曜休館
TEL:098-947-1100
FAX:098-947-0099
MAIL:hall@city.nanjo.okinawa.jp
[i] 沖縄県立開邦高校 沖縄県南風原町に位置する全日制の高等学校。音楽コースと美術コースからなる芸術科がある。
[ii] 沖縄県立芸術大学 沖縄県那覇市に本部を置く日本の公立大学。1986年設置。音楽学部、美術工芸学部からなる。
[iii] 一般財団法人地域創造 1994年に自治省(現総務省)が設置した。1980年代から90年代にかけて全国の地方公共団体で公立文化施設の整備が進展した一方で、ハード面である施設整備に比べ遅れていたソフト面の整備・拡充を目的として設立された財団。
[iv] アイム・ユニバースてだこホール 沖縄県浦添市に位置する公立文化施設。
[v] 矢代秋雄 東京生まれの作曲家。1929年生まれ、1976年没。『弦楽四重奏曲』で毎日音楽賞を受賞。以降、独特の精緻な作品を発表しつづけた。
[vi] クラスター 非常に密集した不協和音を同時にならす現代音楽の手法のこと。