1. 「観光は市民を幸せにするのか?」 講演会での問いかけ (2024/10/02)

「観光は市民を幸せにするのか?」 講演会での問いかけ (2024/10/02)

最終更新日:2024年10月18日

シュガーホールで「住んでいる人、訪れる人 ともに幸せを感じる観光地域づくりとは」をテーマにした講演会とパネルディスカッションが開催されました。このイベントでは、南城市が現在検討中のDMO(観光地域づくり法人)の組成について、市内事業者や市民へ「必要かどうか」の問いかけが行われ、観光地域づくりの未来について活発な議論が交わされました。 

第1部    内閣府沖縄総合事務局運輸部長 星明彦氏

  • 星 明彦 氏(内閣府沖縄総合事務局運輸部長)

    星 明彦 氏(内閣府沖縄総合事務局運輸部長)

  • 「皆さんが大切にしたいものは何ですか?」と問う

    「皆さんが大切にしたいものは何か?」と問う

星氏は、国の「観光立国」の政策はインバウンドを増やすことから持続可能な地域をつくることに方針が転換されたことを説明。その上で「皆さんが南城市に住まう価値とは何ですか?」と投げかけました。

「皆さんがそこに住まわれていることに関して、どのように誇りを感じているか。それがしっかりと意識され、それを表す暮らしや生き方をされていると、訪れた方々に自ずと伝わり、共鳴や感動を起こし、ブランド資産としての地域経済価値を生みます」

一方で、観光が引き起こすマイナスの面にも言及しました。ホテルなどの不動産向けに大量の資金が流入し、不動産価格の上昇につられて住居費も上がる可能性を指摘。

「そうすると市民の実質賃金が下がり、教育や外出を諦めていく。また、都会の商業施設が増え、地域のアイデンティティが失われたリゾート地が多い。そう言ったマイナス効果を未然に防ぎ、プラスの効果を引き出すマネジメントをするのがDMOです」

と説明し、域内生産額を拡大しつつ、地域の伝統的な価値を守りながら未来へ引き継いでいくことが求められると訴えました。

第2部    JTIC.SWISS 代表 山田桂一郎氏

  • 山田 桂一郎 氏(JTIC.SWISS代表)

    山田 桂一郎 氏(JTIC.SWISS代表)

  • 「何のために観光を推進するのか?」と問う

    「何のために観光を推進するのか?」と問う

山田氏は、「皆さんは何のために観光地域づくりを行うのですか? 何に困っているのですか?」と問いかけ、スイスの名峰マッターホルンの麓にあるツェルマット村の事例を紹介。資源が乏しい土地であるため、住民自らがホテルを建設・運営し、地域内で電気自動車の製造・メンテナンスも行っている様子を説明しました。

「自分たちで主導権を持つことが大切。例えば、フランス製の安い卵ではなく、地元スイス製の高品質な卵が売れる理由は、『この卵を買わなければ、回り回って夫の仕事がなくなる』という住民の認識があるからです。これこそが域内経済の循環です」と強調しました。

また、山田氏は「グローバル化とは、共通した価値観で全てを判断することであり、多様性とは相反するものだ」とし、「グローバル化する必要はなく、徹底的にローカル、足元の本質的な価値を掘り起こしていかなければならない」と解説。地域の固有の価値を大切にし、観光に活かしていくことが真の「グローバル対応」であるとの考えを示し、参加者に深い示唆を与えました。

第3部 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、市民や市内事業者も交えて活発な議論が行われました(内容を要約して掲載しております)。

  • パネルディスカッションの様子

    パネルディスカッションの様子

  • モデレーター 善井 靖 氏

    モデレーター 善井 靖 氏

登壇者

モデレーター 善井 靖 氏(内閣府 地域活性化伝道師・クールジャパンプロデューサー/総務省 地域力創造アドバイザー)
パネリスト① 星 明彦 氏(内閣府沖縄総合事務局運輸部長)
パネリスト② 山田 桂一郎 氏(JTIC.SWISS代表)
パネリスト③ 地元事業者 高橋 巧 氏(株式会社南都 取締役)
パネリスト④ 南城市民 新里 春加 氏(南城市佐敷出身)
パネリスト⑤ 南城市民 親川 由実 氏(南城の未来を担う若者)

講演の内容を受けて

高橋氏
高橋 巧 氏
ガンガラーの谷を計画した際、多くの社員は価値のない場所だと思っていました。それでも価値を伝え続けた結果、今ではガンガラーの谷を壊せと言う人はいないと思います。このように、地域の大切なものを守るための手段として観光があるのかなと思いました。
新里氏
新里 春加 氏
私がやっている琉球舞踊だけでなく、南城市は地域の伝統芸能も盛んです。こうした生活に根ざした地域芸能を観光客も楽しめるようにしていけたらいいなと思っています。
親川氏
親川 由実 氏
私の出身地である知念は、南城市内でも人口が減少しています。観光地としてより多くの人に足を運んでもらい、魅力を知ってもらうことで、交流人口から関係人口、さらには定住人口が増えていくことを期待しています。また、進学や就職の際、どうしても若者が都会や県外に流出してしまいますが、南城市に雇用の機会が増えれば、この若者の流出を食い止めることができるのではないでしょうか。
  • 高橋 巧 氏(株式会社南都 取締役)

    高橋 巧 氏(株式会社南都 取締役)

  • 新里 春加 氏(南城市佐敷出身)

    新里 春加 氏(南城市佐敷出身)

  • 親川 由実 氏(南城の未来を担う若者)

    親川 由実 氏(南城の未来を担う若者)

 

改めて観光地域づくりとは


星氏
星 明彦 氏
DMOは観光を通じて地域を作る仕組みです。私の言葉で言うと、住む価値や訪れる価値を皆さんで再確認することです。伝統を守りながら、世界に理解されるように文化を高め、環境・経済・社会の好循環を作り出していく。それによって、住む価値や訪れる価値を向上させるための方法があります。あとは皆さんがそれを選ぶかどうかです。
山田氏
山田 桂一郎 氏
スイスは、文化や産業構造を含めて生活の質(QOL)を高めることを実践しています。資源が少なくても、生活の質が高ければ人が集まります。南城市の皆さんのライフスタイルそのものの質をどう向上させるかが重要です。方法は地域によって異なります。大事なのは皆さんが主導権を持ち、自分たちで決めることです。
  • 星氏、山田氏も参加して市民と対話

    星氏、山田氏も参加して市民と対話

  • 若い世代も思いを述べる

    若い世代も思いを述べる


地域内の合意形成

高橋氏
高橋 巧 氏
ここで『では、南城市は何をするのか?』という問いが出ます。
新里氏
新里 春加 氏
もっと市民が気軽に『何をしたいか』を話し合える場が必要ではないでしょうか。
山田氏
山田 桂一郎 氏
その際、できるだけ意識の高い人に意見を聞くことが大切です。
善井氏
善井 靖 氏
地域内で多様な意見が出た時、どのようにまとめて意思決定すればよいでしょうか。
星氏
星 明彦 氏
単に賛成・反対を問うのではなく、皆さんがどんな暮らしをしたいかを考えることが大切です。できれば1対1の対話やワークショップで、具体的な困りごとや願いを言葉にしていただくことが有効です。

運営体制について

山田氏
山田 桂一郎 氏
組織を運営する段階においては、合意形成よりも意思決定が重要です。気仙沼市では、現場の担当者が2週間に1回会議を開き、市長や各団体の長が参加する取締役会では議論ではなく決定を行っています。これによって、PDCAサイクルを加速させています。うまくいかないところは、総会のときにしかPDCAを回していません。
善井氏
善井 靖 氏
行政が予算を出すと、議会でスピードが落ちたり、止まったりすることがあります。それに対して、どのような対応が考えられますか?

星氏
星 明彦 氏
議会で止まるケースや、首長の交代で進まなくなるケースはよくあります。解決策として、二層構造にする方法があります。一般社団法人が大まかな合意や計画の決定を行い、株式会社が経営を担当することで、合意形成と経営を分離しつつ連動させることができます。

まとめ

高橋氏
高橋 巧 氏
地元事業者としてできることは、既にある素晴らしい価値のある自然・歴史・文化を伝えていくコンテンツ商品を開発し、マネタイズしていくこと。大事なのは南城市がどうしていきたいのか。今後のワークショップでいい話ができたらいいなと思う。
新里氏
新里 春加 氏
自然や伝統文化は、一度壊してしまうと元に戻すのが難しいです。100年後も自然や伝統を残し、それが南城市の価値となり観光に繋がっていくのではないかと考えます。

親川氏
親川 由実 氏
10年後、20年後、自然や景観、歴史文化を守りながら、活気に満ちた地域にしたいです。そのために、市民と行政が同じ目標に向かって取り組むこと、若い世代が地域の特性や観光について学ぶ機会を増やすこと、そして全世代が地域づくりに参加することが大切だと思います。
星氏
星 明彦 氏
あまり難しく考えずに、皆さんがこの土地に合った美しい生き方をしていれば、自然と良い関係や仕組みが生まれていくでしょう。ゆんたくしながら、一緒にやりましょう。
山田氏
山田 桂一郎 氏
気仙沼は東日本大震災で大きな被害を受けましたが、それでも『海と生きる』というコンセプトを立て、共感を呼び、ファンを作り続けています。南城市でも本質的な価値を見つめ直し、コンセプトを立ててファンクラブを作るべきです。私も南城市のファンクラブができたらぜひ入りたいですね。